「秋葉原事件 加藤智大の軌跡」 中島岳志

ちょっとした調べ物のついでに「秋葉原事件」について知りたくなったので読んでみた。タイムリーなことに契約社員の食品農薬混入事件が先日起こって、会社への不満、雇用の不安が犯行の動機といった報道が大きく取り上げられており、やや構造が秋葉原事件を思い起こさせるものだった。

 政治学者である著者が非常に丹念な取材で、加藤智大という人間像を浮かび上がらせているのはもちろんこの著作の面白い部分ではあるけれど、とくに面白いのは「どうすれば事件が防ぐことができたのか」や「秋葉原事件から見る現代社会」のような寄り道をほとんどせず、淡々と彼の出生から犯行のその瞬間までを追っているところである。

2014年のいまになって思えば「秋葉原事件」は現代社会になにかを投げかけるものだったのか、さまざまな問題提起があり解釈あり、事件そのものの面白さだけが拡大していったけれど、この著作でボクはただただ加藤という男の人生に深く没入していくことができたように感じる。

エンディングに待ち受けるのは惨劇でありそこに至る過程をなんのドラマ的演出を行うまでもなく、読者自身を自然と加藤に重ねていくことでモンスターとなっていく自分に震えるという、倒錯した恐ろしさがある。

 

秋葉原事件 加藤智大の軌跡 (朝日文庫)