「震える牛」 相場英雄

駅ナカの書店で衝動買いした1冊。社会派サスペンス物。

最後までどんでん返しも、驚愕の真相もないが凄腕刑事が少しずつ少しずつ真実に近づいていく描写は古き良き刑事ドラマのようで非常にいい読後感。警察用語も逐一説明するようなこともせず、さらっと読める程度に使われている。警察小説ってこういうものなんだなと感心してしまった。

企業の闇に切り込んでいくネット記者と、未解決事件の容疑者を追う刑事という2本筋で話は展開していきます。たしかにミステリーと違うのは、警察は容疑者をほぼ特定した上で、そいつが犯人である証拠を地道にかきあつめていく作業なわけで、序盤にほぼ結論が出ているので、終盤に実は犯人はこいつ!となる推理物とは構造は違うわけですね。

となると、何が作品を特徴づける要素となってくるかというと、犯人の動機ということになりますね。なぜ殺人を実行するに至ったのかという、終盤に語られるその動機に最初から注目がいく。序盤から容疑者の人物描写やその背景について多く語られる場面もあるが、そういった文章からは、「まさに殺人でもやらかしそうなやっちゃな」という印象をもたされるんですが、最後に真相にいきつくと「どうやらこいつにもいろいろと事情がありそうだ」となってしまうのは、読んでいても我ながら不可思議な感覚である。

震える牛 (小学館文庫)