「儚い羊たちの祝宴」 米澤穂信

 「古典部シリーズ」の作者の短編集。アニメで見た作品を原作でもう一度読むのもなんだかな、と思ったので別の作品を手に取ってみた。ミステリー史には全然詳しくないので、マニアックな伏線やネタはあまり楽しめなかったけれど、収録されている5編はどれも豪華なお屋敷を舞台に起こる事件を扱ったもので、知識のないボクにもミステリーの舞台装置としての「お屋敷」について考えることができた。

 あまりボクにはピンとこなかったのだけれど、どの富豪たちも外界との交流がなくオープンに人を迎える空気がない。「お屋敷」はそれだけで閉鎖的な要因としても機能するようで、またそんな閉鎖的な空間でたくさんの人間が集まった場所では人間関係も自然と入り組んだものになってくる。人々の情緒にも大きな影響を与える場所なのである。つまり「お屋敷」というものは、事件を引き起こすための舞台ではなくて、人間をいかに狂気に追い込むかを考えた末の「お屋敷」であるということだったわけですね。

 平時においてなぜ人は人を殺すのか。殺人事件の多くは身内のごたごたが原因であるらしいけれど、そうはいっても人を殺すにはそれだけの理由があるものだろうと考えるのが人情である。しかし、最近ボクの実感ではあるけど、ときには人間理由もなく気が昂ぶって人を殺しちゃったりすることもあるさ、みたいな感覚を下地においたミステリーが多くなっているように思う。そうすると、あいつらはなぜ殺したのか?そう、狂っていたからだ(ドーン)、みたいに動機以外の真相が解決すれば、ストーリーは収束する構図になっている。

 この作品はそういった流れのなかにあるものかなとも感じたけれど、むしろ理解しがたい人間模様を描き出すために「お屋敷」というものを記号として利用している風でもある。耽美な語り口を特徴にあげることもできるかもしれないけれど、それ以上に人間の狂気を取りだすための舞台を用意した作者ではあるが、つまり「殺人事件」そのものは社会悪として対極に置いていることが前提であることには面白くも、恐ろしいことのように感じた。

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)