映画「言の葉の庭」 監督:新海誠

新海誠監督の新作。映画館で見たんは初めてかな。

新海監督の作品は多分全部見てるはず。でも「雲のむこう、約束の場所」は見たはずなのになぜか内容が思い出せない。「ほしのこえ」は佐原ミズのコミック版からポロロッカした。そして猫を拾ってくる話は無条件に良作。

主人公のタカオは、靴職人を目指している高校生だ。この設定を知ってすぐに「耳をすませば」の天沢聖司君を思い出したんやけど、自分の夢を無邪気に追いかけながらも両親から反対され悩む聖司君と違って、タカオはそもそも自分の夢の実現性に疑問を抱きながらもそれを誰にも相談できずに周囲からの視線には敏感であるという、とても現代的な少年像であるようだ。

ボク的にはこういったクリエイティブ系(ちょっと違うか)の職を目指す人っていうのはどういう環境で育ち、どういった社会階層に暮らしているのか気になる。たとえば先輩女子の柄の悪さからおそらく進学校といった感じではない、とか全く描写がないがタカオの両親が不在であって家庭環境の複雑さが垣間見えるとかである。あと「耳すま」にしても夢を夢として追いかける少年の背景みたいなものって全然描かれていないのに、それでも「理解のない周囲の大人」は必ず登場するわけで、どうにも作り手側がすでに少年たちを突き放している雰囲気が伝わってくる。

まあそれは置いとても、靴作りの過程で足型を写す場面はとても官能的な描写になっていて一番の見どころだと思う。監督が「この映画のセックスシーン」と言っているくらいにどきどきさせられた。ただ足を触られているときにユキノさんノーリアクションやねんけど。あれにはちょっとびっくりした。思いの外タカオとユキノさんにはデカイ距離があって、このシーンを見た瞬間にこの作品はもしかしてバッドエンドなのではないかと不安になった。

予備校で現代文の講師にこんな話をされたことがあった。「経験の未熟な皆さんは豊富な経験をもつ大人にはどうやっても議論で勝てないんですね。そうなると最後には暴力にうって出るしかないんですよ。教師を殴っちゃうしかないんですね」この言葉だけだと生徒を煽ってるだけにしか見えへんけど(笑)、子どもと大人の性質の違いを明確に説明してた気がしたのよね。だから子どもって大人に対して真剣になればなるほど暴力的になっていくもので、どんどん距離が隔たっていく構図は避けられないのかと感じるけれど、そういう子供らしい無邪気な暴力性をすでにもたないボクたちに、タカオの告白を受け止めて情緒にあふれた態度を見せるユキノさんに自分を投影させ、ボクたちのそもそもの情熱の温度差を自然と認識させるところがこの作品の素敵な部分だと思った。

 

手元の細かい表現にもよく目がいった。黒板にチョークで文字が書かれる場面、主人公がノートに鉛筆でメモをする場面、お弁当の玉子焼きを箸でつまむ場面とか。前にアニメの「のだめカンタービレ」見てるときに、ピアノを弾く人間の手の動きに、関学の先生が研究しているCG技術が使われているとかで、それからそんなシーンに割と注目するようになった。たしかに今までそういった手元のシーンって映されてこなかったような気がするなと思って観ていると、本当に人物の手元の描写が細かくてどこかエロい。だがそれがいい。

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