映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」

ニューヨークで何十年も道行く人のファッションを撮影し続ける大物カメラマンのドキュメンタリー映画。とにかく仕事人間で、仕事以外のことは一切関心がない。食事や住まいも質素で、報酬も受け取ろうとはしない。本編のほとんどもその仕事ぶりにフォーカスしたものになっている、というか仕事以外に何もしていないから撮ることがない。これまで撮影してきたモデルや、社交界の重鎮、そしてアート界の作家のインタビューを中心にビルの生き方やファッションに対する彼の哲学を明らかにしていく。

ドキュメンタリーというと、2年ぐらい前に前衛芸術家の草間彌生のドキュメンタリーを大学の講義で視聴したことがあった。ボクがそれを見たときに感じたのは、仕事を行っているときの人格とそれ以外の場合を無意識に分けているのかなという疑問だった。その映像でも海外で活躍する日本人アーティストという視点で、草間さんの作品やこれまでの作家人生を、こちらはインタビューではなく主に制作現場を映すことで視聴者に伝えるものになっていた。草間さんと仕事をしたことがあるという学芸員の方は、実際の彼女の様子をその映像を補足する形で話してくれた。

ただドキュメンタリーといっても公私関係なくカメラで追いまわしたからといって、あるいは彼の作品を全て鑑賞したからといってその人物の中身まで探ることが本当にできるのだろうか。たとえばスティーブ・ジョブズがどんな人間か?という問いがあって、「アップルの創業者で、iPodiPhoneを開発したエンジニア」と答えたとすると、この説明でまあ十分だとボクは思う。けれど、でもそれだけでもないよーな気もするしって感じで伝記映画とか見ちゃったりするんだろうなと。

だから単純に一般的に知らんかったことが知れれば、それが本当に人間性に近づいたということになってしまうっていうのも、結局何のためにドキュメンタリー撮ってんの?とも思ってしまった。つまり結局はどういった作品を残したか、ということになるんだから、テキストであろうと映像であろうともっとビルの撮った写真について語ってほしかった。

しかし、プライベートを犠牲にしているといえば、最近話題のブラック企業的な部分としても広げられるけれど、この働き方はいかに、というかそういった話では全然なくて、じゃあテーマの中心はなんやねんっていうと、ビルを中心としたニューヨーカーの社交界に迫るって様子が大きかった。

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