「グーグルで必要なことは、すべてソニーが教えてくれた」/辻野晃一郎

正直なところボクGoogleのビジネスモデルについて詳しく調べたことなかったんよね。それが知れただけでもこの本を読んでみてよかったかなと思ったよ。内容としてはタイトルから期待されるようなものではなかったかな。著者がGoogleで行った具体的な実績についてはほとんど書かれていないし、それにソニーのどういった経験が生かされているのかも全く分かんなかったから。

大部分は著者のソニー時代の仕事を振り返っての記述です。それが80年代後半から00年代までで、ちょうどソニーの存在感が下がってきた時期とかぶるため、その先頭で働いていた人の経験談として面白かった。特に著者がソニー時代にカンパニープレジデントとしてメンバーに出したメッセージには大いに興味が湧いた。というのは時代を下るにつれて、段々と「お客様目線で」というようなフレーズが増えてきているように見られたからだ。

企業の説明会に行っていてよく感じたことがあった。それは大きく言うと企業の考え方をどんな言葉で表現してるのか、みたいな部分についてだろうか。どこも「顧客満足度」とか「お客様目線」といったフレーズを連呼するのよね。もはやチープな印象すら出てきてるんだけれど、この頃のことなのかは分からないけど、傾向としてこの表現がだんだん突き抜け始めていた。それはどういうことかというと、まず一旦自社のサービスを否定するんよ。それで、お客様の生活を豊かにすることだ、と続く感じ。例えば、自動車メーカーだったら、

「私たちの仕事は“自動車”を作ることではありません。それは、お客様の快適なライフスタイルを創出することです。あくまで製品はそのためのツールなのです。」・・・・みたいなね。

割とどこも似たようなこと言ってて、上の表現も業種に関わらずいろんな企業で応用可能やで。そんな感じで企業理念みたいなものにもトレンドがあるんだなあとふと思った。いま流行しているのは“潜在的ニーズの創出”といった表現かな。まだここにないサービスを作ろう、みたいなことかと解釈してるんやけど。

それで、著者はソニーに入社した頃は開発に携わっていて、どちらかというと技術志向であるような記述だったけれど、それが段々と変わってきているところは面白いなと思った。

それからウォークマンiPodの争いについての記述やね。もうユーザーはオーディオに音質とか求めてないから、みたいなところ。高校のときにも何度かヘッドホンとかスピーカーの違いによる音質の変化みたいな話を聞かされたことがあった。まあほとんどの人はそんなん気にせんよな、とボクは当時から思ってた。むしろそういうオタクに対する敬遠が、製品の敬遠にも繋がってるんじゃないかとも思ったね。でもMDって一瞬でなくなったから実際びっくりしたけど。

著者の考え方や実績にはすごいと感じる部分が多い。その姿勢から学べることは多いと思うけれど、むしろ本著はやはり新しい発見というより、懐かしきあの時代のソニーみたいな読み物として面白い。当事者でない限り、過ぎた時代のことって全然省みないよね。

ああ、そういえば最近ソニーの株価がめっちゃ上がってるらしいですよね。どうでもいいけど。